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小噺

 書をたぐる小さな音と、猫の鳴らす喉の音。時折風が運ぶ遠いざわめきだけが、この部屋の中に存在する音の全てだった。
 背を滑る無骨な手に身体を委ね、牡丹はひどくご満悦だ。温かい膝と優しい手に甘やかされて、とろとろとまどろむ贅沢。素晴らしく優雅で充実したひとときを送ることができるこの部屋とそれを与えてくれる部屋の主が、彼女はとても好きだった。

(あるじさまには、かないませんが)

 彼女が忠誠を捧げるこの学園の長の、次くらいにはしてもいいかもしれない。何しろこの部屋の主である人間は、たいそう猫を撫でるのが上手なのだ。牡丹の治める縄張りに住まう猫たちが口をそろえて褒めたたえるのだから、これは天性の才能を持っているとしか考えられない。
 牡丹を撫でる片手間に書を読んでいるというのに、この手に撫でられると体中の力がすっかりと抜けきってしまうのだ。もしこの身を撫でることだけに集中されてしまえば、どれだけの極楽が待ち構えているのかと牡丹は恐れ半分、期待半分に考える。

(それにしても……)

 はらりと再び書をはぐる音が耳をくすぐると、耐えきれないとばかりに彼女はふるりと耳を震わせた。紙のこすれあう音は、どうにも耳の奥がかゆくなるようで、しかしどこか心地よい。おそらく枯葉同士が触れ合ってたてる音に似ているからだろう。
 皮膚の固くなった指先が耳の後ろを撫でつけ、そのまま首元にすうと滑っていく。まるで先ほど彼女が感じた耳奥のこそばゆさを、理解しているかのように。

(……みっつめの目でも、ついているのでしょうか)

 文机の上に置いた書の上を滑る視線を追いかけながら、牡丹は不思議に思う。彼の目は決してそこから離れることはないのに、いつだって彼女の望む場所を撫でてくれるのだ。

(ふしぎな、ものです)

 不思議な手のもたらしてくれる心地よさに再び目を閉じると、再び波のようなまどろみが押し寄せてくる。
 抵抗などする気も起らない牡丹はあくびをひとつ漏らすと、そのまま波に呑まれるように眠りに落ちた。









小平太不在時の、長次の部屋でよくある光景。
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チキンな引き篭もりのクセして口が悪く態度がでかい。
でもナイーブなイキモノなので石は投げないでください。
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