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三郎

 サックスの甘い音色が響いている。
 どこかで聞いたことのあるメロディだな、としばらく考えて気付いた。何故かジャズチックなアレンジを加えられてはいたが、これはひと昔前に流行った切ないラブソングである。
 正確なリズムと音程で奏でられているのに、どこか奔放な印象を抱くのは、きっと奏者の性格が如実に表れたアレンジだからだろうか。三郎は小さく苦笑しながら、右手で肩に担ぎあげていた鞄を揺すり上げた。彼のクラスはホームルームも終わったばかりなのに、この曲の奏者はどうやら基礎連を既に終えてしまっているらしい。音が聞こえるということは、恐らく屋上かどこかで吹いているのだろう。

「……ごめんね、好きだよ、か」

 サビの歌詞をふと思い出した三郎は、先ほどの微笑ましげな苦笑に僅かな苦みを加えて首を振る。何でもないような表情を作るのに、少し苦労した。誰も見ていないからどんな顔をしていても良いのだが、やはりそこは矜持の問題だ。
 平常心を取り戻した彼は、人気のない廊下を更に進み、音楽室へと向かう。彼も今からそこへ行き、練習をしなくてはいけないのだ。中堅学年としての実力を、しっかりと養うために。

 どうやら他のクラスや学年もようやくホームルームを終えたらしく、今まで静かだった廊下に僅かなざわめきが生まれ始めた。ということは、先ほどから響いている音色の主はホームルームをさぼったらしい。しょうがない奴だなぁと、再び三郎が苦笑した、そのときだった。

 今まで響いていたひとつきりのサックスの音色に、どこか機械的なバイオリンの音色がひとつ重なった。即興のアンサンブルなのか時折音をぶつけながら、それでもふたつの音色の相性は良いらしい。やがて綺麗に絡み合い、あの切ないラブソングがどこか嬉しげな感情を湛えて響いた。

 それと、同時に。
 三郎の足は、ぴたりと吸いついたようにその場から動けなくなってしまった。

 嗚呼、この音は。

「わかっちゃ、いたけど」

 音楽って、やっぱ感情出るんだなぁ。
 まざまざと、認めたくもない現実を突き付けられてしまった。嫌だ嫌だとか言いながら、結局彼女は。

「……ごめんな。でも俺やっぱ、お前のことが好きだわ」

 そっと寄り添うような音色を聞きながら、三郎は小さく呟いた。

 そのとき三郎の脳裏に浮かんだのは、昨日の夜遅くに寮へとやってきた恋人を迎える、彼女の素直じゃない笑顔だった。








現パロと言いつつ、実はコルダ3パロである。
本宅に先駆けて何やってんの私・・・。
多分加筆修正します。
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